『店長がバカすぎて』(早見和真)の書評 〜熱くてヒリヒリする早見節に笑いの神が降りてきた〜

店長がバカすぎて 早見和真 角川春樹事務所

概要 〜どんな本?〜

書名店長がバカすぎて
著者早見和真
出版社角川春樹事務所
ISBN978-4-7584-1339-8
定価1500円(税別)


『イノセント・デイズ』の早見和真さんの中編小説。

 

主人公は吉祥寺の中規模書店に勤める谷原京子(契約社員・28歳)。

店長が全く空気の読めない超絶バカだったり、
憧れの先輩が「そりゃないぜ」っていう形で店を辞めたり、
化け物みたいな客にガンガンやられたり、
出版業界の闇に絶望したり、
不安定で低空飛行な自分の人生に不安を覚えたり、
可愛い後輩にさえ屈折した思いを抱いたり…。

良いことなんて圧倒的に少ない毎日で、何度も辞めようと思う。
でも、どうしようもなく本が大好きで、どうしようもなく周りの人たちが大好きで、やっぱり自分の人生が嫌いになれない。

と、ものすごく乱暴にまとめてみると、こんな話です。

自己評価が低めの女性書店員が、実はものすごい熱量を持っていて、同僚だけでなく大手出版社の営業や、大作家にも影響を与えていきます。

イライラしたり、落ち込んだりすることばかりの毎日だけど、それでも周りの人や自分の人生を愛せることができるのは本当に幸せなことなんだな、と確認させてくれる物語です。

めちゃくちゃ面白くて、一気に読み終えました。

書評

『小説王』という作品

私が早見和真さんの作品を初めて読んだのは、『小説王』という作品です。

小学館の『STORY BOX』というオシャレな月刊文芸誌に連載しているのを読んで、一気にのめり込みました。

幼馴染の作家と編集者のバディもの。

作家が人生を賭けて小説を書き、編集者が死ぬ気でそれを売るという物語です。

主人公二人だけでなく、ベテラン編集長や大作家など周りの海千山千の猛者たちが怖いくらいギラギラしていて、年甲斐もなく熱いのです。

出版業界、特に文芸部門は斜陽産業になってしまっているけれど、俺たちはまだ降りるつもりなんか毛頭ない。

読んでいると、ヒリヒリしてくる熱が感じられる作品です。

一昔前の映画界も、こんな感じだったんだろうなと本気で嫉妬しました。

現在『STORY BOX』で連載中の『ザ・モンスターズ』は、この『小説王』のスピンオフ作品です。

STORY BOX 2020年5月号 小学館

『小説王』で描かれた小説を、作者の元カノである女優が映画化するというストーリーです。

これがまた凄い熱量を持った作品で、毎月楽しみに読んでいます。

こんな映画を自分も作りたい…。

早見作品の熱

『小説王』や『95』に『ザ・ロイヤルファミリー』、もちろん『ザ・モンスターズ』もそうなんですが、早見さんの作品には鳥肌が立ってしまうほど熱くなれるシーンがいっぱいあります。

 

登場人物が、人生に思い悩みもがき苦しんだり、打算など一切なく打ち込んだりしたこと、それが結果として他の誰かの救いになっている。

当の本人は、自分が誰かを救っていることなんか知りもせずに、相変わらず悩んでいる。

そして救われた人が「俺はあなたに救われたんだ」と臆面もなく告白する。

でも二人は単純に仲が良いのではなく、結構深刻な対立関係にあって、本気でぶつかり合った後に本音をぶつけ合う。

 

そういう場面が、早見さんの作品には多く出てきます。

この作品にもそういうシーンが出てくるので、読んでいると相変わらず熱くさせられるし、ヒリヒリさせられます。

プラスアルファ めっちゃ笑える

その早見作品の熱量に加えて、この作品には笑いの神様が降りてきました。

300ページ弱の活字を読むのに、ずっと笑いっぱなしで読んだのは初めての経験かもしれません。
(もちろん熱にやられて途中で何度もジーンとなりながらですが…)

『95』を読んだとき、早見さんは喜劇を書いても抜群に面白いのではと思いました。

その直感は正しかったですね。

「糸魚川断層の必然性」なんてフレーズ、この作品以外には死ぬまで出会うことは無いと思います。

まとめ

今までの早見作品の熱に、圧倒的なユーモアのセンスが融合して「もうお手上げ」という物語です。

早見さんの作品は、気分が凹んでいる時に読むと本当にやる気が出てきます。

 

物語の持つ力の一つは「自分じゃない誰かの人生」を追体験できること
他者を想像すること、自分以外の誰かの立場に立つこと

 

本文からの抜粋です。

ヒリヒリします。


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ろーれる
ろーれる
うどん県出身。京都在住。 映画会社に勤めています。一児の父。 映画やドラマ、旅行やお気に入りの物などについていろいろ書いていきたいと思っています。
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