映画が趣味であり仕事でもある、ろーれる(@Laurel_DKO0930)です。
韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』がアマプラで観られるようになりました。
『タクシードライバー 約束は海を越えて』は、中年のタクシードライバーが主人公のロードムービーです。
「おっさんのロードムービーって面白いのかよ?」
「油っこくない?てかおっさん臭くない?」
というような突っ込みもあるでしょう。
でも自信を持って言います。
自分もそうなんですが、中年に差し掛かると何となく人生の限界を考えてしまうんですよね。
「枯れ始めたオッサンでも、今から人生を変えられるかもしれない」と実感できれば、30代以上の人はドキドキしませんか?
古いCMでビートたけしさんが言ってた「変われるってドキドキするよね」というセリフみたいに。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、格好悪くて情けないオッサンが困難を乗り越えて人生を自分の手で切り開いていくロードムービーです。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』概要
タイトル | タクシー運転手 約束は海を越えて(原題:タクシー運転手) |
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監督 | チャン・フン |
脚本 | オム・ユナ |
出演 | ソン・ガンホ トーマス・クレッチマン |
上映時間 | 137分 |
劇場公開日(日本) | 2018年4月21日 |
配給(日本) | クロックワークス |
観賞劇場・媒体 | Amazon Prime Video ※Prime会員特典作品 |
簡単なあらすじ
1980年の韓国。
主人公キム・マンソク(ソン・ガンホ)は、ソウルのタクシードライバー。
妻に先立たれ、11歳の娘と二人で暮らしている。
経済的に苦しいマンソクは高額の報酬を目当てに、ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せてソウルから光州までタクシーを走らせる。
光州は軍により封鎖されており、現地の情報もソウルではほとんど報道されていない。
検問を潜り抜け、苦労の末にマンソクとピーターは光州に入る。
そこで二人が目撃したのは、決して事実が報道されることはない軍による圧政・暴虐だった。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』を楽しむための前提知識
前提知識なんて無くても楽しめる映画ですが、2点だけ予習しておけば世界観がより詳しく理解でき、更に面白く観賞できると思います。
- 光州事件について
- ソウルから光州までの距離感
光州事件について
光州事件が題材になった映画です。
光州事件を超簡単に言うと、1980年に韓国の光州という街で起きた政府軍と民衆の衝突事件です。
1980年の韓国は軍がクーデターで政権を握っていました。
軍事政権が民主的な運動を弾圧した結果、光州では多数の死傷者が出たという事件です。
政権により報道は統制され、多くの韓国民は事実を知らされていなかったようです。
主人公のマンソクも光州で何が起きているか知らず、上客を捕まえてウキウキした気持ちでタクシーを走らせます。
詳しくはWikipediaなんかで光州事件を調べてもらえればと思います。
ソウルから光州までの地理
ソウルから光州までは直線距離にして約270kmです。
東京から名古屋までの距離とほぼ一緒です。
この距離のお客を乗せるんですから、タクシーの運転手さんはそりゃウハウハになりますよね。
しかも運賃はだいぶ色を付けてもらっているようです。
登場人物
ダブル主演の二人を少しだけ紹介します。
キム・マンソク(ソン・ガンホ)
韓国の名優ソン・ガンホ演じる主人公キム・マンソクは、風采の上がらない中年のタクシー運転手。
妻に先立たれ、11歳の娘と借家住まいをしています。
家賃を何ヶ月も滞納しているので、大家の息子に自分の娘がイジメられても抗議もできない情けない父親です。
でも娘のことは心から愛している良い父親でもあります。
乗っているタクシーの走行距離は何と60万km。
(→当然、後々エンジンがかかりにくかったりする伏線になります)
兵役経験者で、サウジアラビアに出稼ぎ経験あり。
政治に対して興味が薄く、学生の民主化運動については「学生なんだからデモなんかやってないで勉強しろ」と考えています。
非民主的な社会では学問の自由も保証されず、学生運動にも正当な動機はあるのですが、マンソクはそんなことは理解できません。
「韓国がどれだけ住みやすい国か!」と学生デモを反感的に見ています。
光州まで外国人記者を乗せるだけで高報酬の美味しい仕事をゲットした、と同僚がうれしそうに話しているのを聞きつけたマンソクは、その仕事を横取りするクズっぷりを発揮します。
自分の不遇を嘆くばかりで、何も知ろうとしない人間です。
ピーター(トーマス・クレッチマン)
日本駐在のドイツ人記者。
「韓国の光州で何かとんでもないことが起きているらしいぞ」
「政府が情報統制していて事実が何も伝わってこない」
と同僚から聞き、光州へ潜入取材を決行します。
英語が堪能なドライバーを手配したはずが、現れたのは片言の英語しか話せないマンソク。
自分が何のために光州へ行くのか、ちゃんとマンソクに説明しているのに伝わりません。
コミュニケーションが満足に取れない上に、マンソクの職業倫理の低さを目の当たりにしてウンザリしてしまいます。
レビュー
ロードムービーとは?
確かにそうなんですが、それだけだったら単なる旅紀行ですよね。
ロードムービーでは、主人公が旅をしていく途中で成長し変化していきます。
何か目的があって旅に出るわけですが、主人公は旅の途中で当初の目標よりももっと大切なこと=自分自身を発見します。
- 旅の途中で主人公が変化、成長する
- 旅に出た目的よりも大切なこと=自分自身、を主人公が発見する
登場人物の紹介でも触れたように、マンソクって本当にダメな主人公なんですよ。
お金のために人の仕事を盗んで、嘘をついて、現実を知ろうともしない。
そんなどうしようもない人間が光州に行ってみたら、信頼していた国家が一般市民を暴行したり殺戮したりしている光景を目の当たりにするわけです。
当然ながらマンソクは逃げます。命が惜しいですから。
でも逃げてばかりじゃロードムービーじゃないんですよ。
情けない男が、観客の心を震わせるほど共感できる人物に成長しなければなりません。
半分以上人生を諦めていたオッサンが、自分よりも他人のことを思いやるスーパー前向きな人間に変わるのです。
もちろんもう一人の主人公ピーターも変化します。
始めのうちはマンソクにウンザリしていましたが、マンソクの臆病さは娘のために絶対死ねないからでもある、ということに気付きます。
現実に絶望したピーターを救い出すのは、変化を遂げたマンソクです。
ピーターはあんなにウンザリしていたマンソクを心の底から信頼するようになります。
成長する二人のオッサンと力強く芽生える友情。
スリリングなアクション。激しいカーチェイスも
『タクシー運転手 約束は海を越えて』は最高級のロードムービーであると同時に、めちゃくちゃ迫力があるアクション映画でもあります。
政府軍が市民を虐殺していくシーンは怖いくらいの迫力です。
クライマックスのカーチェイスシーンも圧巻。
1980年の設定ということで、劇用車の調達は安くもなければ簡単でもないと思うのですが、ガッツンガッツンぶつけたりひっくり返したり、窓ガラス割ったり、車内を血塗れにしたり。
日本映画なら
となって、初稿時点で脚本から抹消されてしまうでしょう。
韓国映画界の体力と、それを許せる社会環境が本当に羨ましいです。
嫉妬で狂いそう…。
まとめ
『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、137分と少し長めの上映時間ですが、全く長さを感じさせない名作です。
政治的なメッセージも濃く、単なる娯楽作品で終わっていない素晴らしさもあります。
中国では天安門事件との類似性を指摘され、上映禁止だとか。
韓国で大ヒットしたのも当然だと思います。
アマプラで気軽に観られますので、ぜひご覧ください。
そして感想を教えてくださるとものすごくうれしいです。
- 中年男が年甲斐もなくドキドキできるロードムービー
- めちゃくちゃスリリングなアクション映画
- 政治問題についても深く考えさせられる文化映画