サスペンス

【母なる証明】すごいぞポン・ジュノ2

作品概要

タイトル母なる証明
監督ポン・ジュノ (『パラサイト 半地下の家族』など)
脚本ポン・ジュノ
出演ウォンビン キム・ヘジャ他
劇場公開日(日本)2009年10月31日
配給(日本)ビターズ・エンド
観賞劇場・媒体Amazon Prime Video ※Prime会員特典作品

『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の作品です。

個人的には『パラサイト〜』以上の名作だと思います。

『パラサイト〜』や『スノー・ピアサー』に比べるとスケール感は無いかもしれませんが(それでもカーアクションや火事場など相当なことをやっています)、ドラマ性はこの作品が優っています。

衝撃的な真相に打ちのめされるし、シュールなラストシーンの余韻に呆然となるし、良い意味で散々にやられまくった作品でした。

あらすじ

知的障害?の青年・トジュン(ウォンビン)とその母親(キム・ヘジャ)の物語。

ある夜、トジュンは不良友達のジンテ(チン・グ)と飲みに行くと出かけていく。
息子が不良のジンテと付き合うのを母は反対するが、トジュンは従わない。

行きつけのバーで、独りしたたかに酔っぱらうトジュン。
ジンテは約束をすっぽかしたのか、連絡もつかないまま店に現れなかった。
やがて閉店の時間になり、トジュンは店を追い出される。

帰り道、前を歩く少女アジョン(チョン・ミソン)をナンパしようと声を掛けるトジュン。
しかし、アジョンはトジュンを振り返ることなく、足早に建物の間の暗闇に消える。

振られたと思ったトジュン。
アジョンが消えた暗闇に向かって「男は嫌い?」と問いかける。
すると、暗闇から大きな岩がトジュンの前に飛んで来る。
物騒だと思い、その場を立ち去ろうとするトジュン。

帰宅したトジュンは、いつものように母が寝ているベッドに潜りこんで眠る。

翌朝、昨夜トジュンが声を掛けた場所で、アジョンの遺体が発見された。
状況証拠と物的証拠が揃い、トジュンは殺人容疑で逮捕される。

息子の無実を信じて疑わない母は、自ら真犯人を突き止めようとする。

レビュー

衝撃的なオープニング

「ツカミ」という言葉があります。
冒頭に派手なアクションなんかを観せて、観客を強引に「つかんで」物語へ引きずり込んでしまうシーンのことを指します。

この作品のファーストシーンは衝撃的です。
「母」であるキム・ヘジャ(当時67ー68歳)が、枯れ野原を一人歩いています。
そして、いきなりカメラ目線でよく分からないダンスを躍り出すのです。

「ツカミ」どころか、「これどういう映画なの?」と観客は疑問に思うことでしょう。
その疑問が、作品への期待にストレートに向かえば良いのですが、この時点で諦めそうになる人も多いと思います。

私もそうでした。
シュールすぎると。どうせアマプラだし、他の作品にしようかなと。
もっと言えば、これ大丈夫かと。

しかし、それをグッと堪えて観賞を続けます。
そうすれば、またこのファーストシーンに戻って来ざるを得なくなるのです。

諸刃の剣、という言葉が相応しいファーストシーンです。
正直、「うげぇ…」となる人も多いでしょう。
でも、このファーストシーンの意味を知ってしまうと、お手上げになってしまいます。

とにかく、このファーストシーンに呆れ果てたとしても、我慢して続きをご覧ください。
絶対に損はしません!
ちゃんと戻って来れますので。

ポン・ジュノ作品の特徴

『スノー・ピアサー』のレビューでも書いた通り、ポン・ジュノ作品には3つの特徴があります。

  1. 主人公は下流階級に属している
  2. グロテスクな描写とユーモラスな表現のバランス
  3. 伏線、そして伏線
スノーピアサー レビュー
【スノーピアサー】 すごいぞポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督作品である『スノーピアサー』のレビューです。ネタバレなし。...

この作品にも、この3つの特徴があります。

主人公は下層階級に属している

『パラサイト〜』や『スノー・ピアサー』ではこの点が作品のメインテーマになっていました。

この作品では、貧富の対立軸は上述の2作に比べると希薄です。

しかし、トジュン親子もアジョンも、貧困層だったからこそ、この事件に巻き込まれてしまいます。

そういう意味では、本作でもやはり重視しなければならない特徴でしょう。

グロテスクであり、ユーモラス

『スノー・ピアサー』ほどではありませんが、作中で起こる事件は視覚的にも心理状況的にも結構グロテスクです。

トジュンのユーモラスな人物描写は、そのグロテスクさとバランスを取っているのかもしれません。
馬鹿だけど憎めない。でも、馬鹿だと罵られると他人はもちろん、最愛の母親にさえキレてしまう。

伏線、そして伏線

そのユーモラスな人物描写さえも、壮大な伏線になっているのが、ポン・ジュノ作品の特徴です。

トジュンは、記憶力に難があります。
他人から押しつけられたことも、事実だと信じてしまう人間です。

事件当日のこともよく覚えていない。
トジュンを逮捕した時点ですでに、警察は供述調書を作っています。
この紙に書いてある通りだよな、お前はこれにサインをするだけで良いんだよ、と。

私たち観客はトジュンの人間性に好感を覚えつつも、その知性を信頼はできません。
(ポン・ジュノ監督は、トジュンを知的障害者ではないと否定しているそうですが)
しかし、それ故にトジュンの無実を素直に受け入れてしまうんですよね。

これは『カラマーゾフの兄弟』のドミートリイと読者の関係に似ていると思います。
読者がドミートリイの有罪を疑わないという、シチュエーションは全く逆なのですけれど。

脱線してしまいました。

トジュンのもう一つの特徴は、忘れていたことをずいぶん後になって思い出すこと。
すっかり忘れていたことも、ある日突然思い出すことがあるのです。
この特徴は、ラストシーンの後に続くであろう物語も想像させてしまうことでしょう。

また人物描写以外にも、卓越した構成力の中に伏線が散りばめられています。
あまり詳しく言うとネタバレになってしまいますが、マジですげえと思った伏線をとりあえず2つだけ挙げます。
どちらも物語の中盤です。

・母がゴルフクラブを持って警察署に向かう場面で、鳴り響く「雷」
・ジンテが母にアドバイスした言葉ー「誰も信じるな」

まさに映画的表現と言うべきか、ただただ感服する他ないです…。

まとめ

個人的にはポン・ジュノのベスト作品です。

面白い。とにかく面白い。

最近、カルディの安いワインにハマっている私としては、「エスト!エスト!!エスト!!!」なんて意味不明なことを叫んじゃいそうなくらい面白い作品です。

構成も素晴らしい作品で、シド・フィールドの脚本術で分析すると、その美しい構成に溜息が出るレベルでした。

こちらはネタバレになってしまいますので、また改めて分析レビューを載せようかなと思っています。

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ろーれる
ろーれる
うどん県出身。京都在住。 映画会社に勤めています。一児の父。 映画やドラマ、旅行やお気に入りの物などについていろいろ書いていきたいと思っています。
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