作品概要
タイトル | 恋は雨上がりのように |
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監督 | 永井聡 『帝一の國』 |
脚本 | 坂口理子 |
原作 | 眉月じゅん |
出演 | 小松菜奈 大泉洋 他 |
劇場公開日 | 2018年5月25日 |
配給 | 東宝 |
観賞劇場・媒体 | Amazon Prime Video ※Prime会員特典作品 |
『帝一の國』が抜群に面白かった永井監督の作品。
大人でも、きっちり楽しめる青春映画でした。
あらすじ
女子高生・橘あきら(小松菜奈)は感情表現が乏しいものの、黒髪でスレンダーな美女で、想いを寄せる男子も多い。脚を怪我する前は、陸上部の短距離走のエースだった。
一方の近藤正巳(大泉洋)は冴えないファミレスの店長。客のクレームに頭を下げ続ける日々。従業員への指導力も無く、部下からも馬鹿にされている。バツイチ45歳。小説家を目指していた過去があり、いまだに夢を諦めきれない。
月とスッポンのような2人だが、あきら(月)が近藤(スッポン)に片想いの恋をする。
レビュー
2つの視点 女子高生も中年男も安心して観られる
この映画には2つの視点があります。
- 自信をなくした女子高生が、優しくて素敵な大人に恋する話
- 冴えない中年男が、美人の女子高生に惚れられる話
橘あきら(小松菜奈)と近藤正巳(大泉洋)、観客は自分の属性に近い方の視点に立つことになります。
青春映画は学生同志の関係のみで終始する物語が多いイメージで、中年である自分にはなかなか厳しかったりすることもあるのですが、この作品は近藤という視点があるので安心して観られました。
作家になるという夢を諦めきれずに、いまだに原稿用紙に向かっている近藤。
大学の同級生はベストセラー作家になっていて、自分の境遇と比べて悶々としてしまう。
自分が10代の頃は、40代の人を大人だとかもう枯れているとか、そういうイメージで見ていました。
でも自分がその年齢に近づいてくると、全然大人になりきれていないし、やり残していることは多いです。
まだまだ燻っているわけですが、近藤もそういう大人なんだろうなとものすごく共感できました。
あきらと近藤の恋愛に対する温度差もきちんと描けていて好感が持てました。
①の視点の人は、この恋が成就して欲しいと思うでしょうし、
②の人は、どうせダメなんだろうなと考えながら観るでしょう。
キャスティングが非常に良い
キャスティングが、適材適所という言葉がぴったりな作品でした。
橘あきら=小松菜奈
個人的な印象として、小松菜奈さんは『バクマン。』(中根仁監督)での演技が非常に魅力的でした。
不思議な雰囲気をもつ女優さんだと思います。
感情表現が苦手だけど、心の内に強い葛藤を抱えている、という役柄をきちんと演じられていると思います。
小松さんのもつオーラがこの「あきら」という役にジャストフィットしているというか。
演技だけでは表現しきれないものを、天性のオーラで補強している、という感じです。
近藤正巳=大泉洋
この役は大泉さん以外に考えられないですね。
ただのうだつの上がらない中年では無く、女子高生に恋されるような素朴な魅力を持ち、いまだに夢を諦められない熱も持ち合わせている。
この役柄を十分に表現できる役者さんは、大泉さんしかいない、と思えるレベルです。
久保佳代子=濱田マリ
ファミレスの従業員。
店長の近藤を馬鹿にしていて、こき下ろすことばかり言うのですが、全く嫌味さがない。
それどころか、コミカルで笑えてしまいます。
店長のことが決して嫌いではないんだろうな。
監督の演出もあるのでしょうけど、濱田さんの持ち味が十分に活かされていると思います。
九条ちひろ=戸次重幸
この役も戸次さんが最適役ですね。
ベストセラー作家であり、近藤の大学時代の同級生。
近藤の羨望と嫉妬の対象なのですが、自分の作品がずっと売れ続けるとは全く思えないという不安を抱えながら戦っている。
今の立場は違ってしまったけれど、再会した近藤とすぐに大学時代の関係性に戻ることができる。
チーム・ナックスが好きな人にはたまらないキャスティングです。
疑問点:「葛藤」が十分に描けているか?
最後に、少しだけ後ろ向きなレビューを。
個人的な印象でしかありませんが、あきらと近藤の葛藤をもう少し濃く描いても良かったかも、と思いました。
あきらの葛藤
陸上のエース選手だったあきら。
大怪我を負い、競技を諦めそうになっているときに近藤と出会い、恋をします。
あきらの葛藤は、
- 陸上(=親友との友情にも繋がる)を諦めなければいけないかもしれない
- 近藤との恋を成就したい
- 近藤との恋か、陸上への復帰か
と大きく分けると3局面あると思うのですが、②の恋の葛藤だけが先行し過ぎている印象がありました。
怪我で陸上を諦めた、という背景はきちんと説明されていますが、そこにどれだけの葛藤があったのか最初は気づけませんでした。
最初の方は、近藤に恋をしてはしゃいでいるだけという印象が強く。
少し想像すれば陸上への葛藤も読み取れるはずですが、私は中盤の近藤と図書館にデートに行く場面まで、この葛藤に気づけませんでした。
(私の理解力が弱いのが最大の問題だと思いますが…)
近藤の葛藤
「あきらと上手くいってしまって良いのだろうか」という葛藤も少しはありますが、やはり近藤最大の葛藤は「夢=作家、現実=ファミレスの店長」ということでしょう。
この点を考えると、九条に対する鬱屈した気持ちが弱すぎるのでは、と思いました。
九条がベストセラー作家として孤独な心情を近藤に伝える場面があるのですが、近藤は結構あっさり共感してしまっているような印象を受けました。
九条の悩みは到達者としての悩みであり、近藤からすれば傲慢でさえある悩みだと思います。
ここについては、もう少し泥臭くやった方が良かったかも、と思いました。
でも葛藤もほどほどに
私は、青春映画は一種のファンタジーだと考えていますので、葛藤をあまりにリアルに描き過ぎてもダメだと思います。
葛藤に重点を置きすぎると、作品全体のスタイリッシュさが失われる危険性がありますし。
これは微妙な匙加減なので、作り手や観客の感性がどれだけマッチするか、ということでしかないかもしれません。
個人的に葛藤がすごく共感できた青春映画は『幕が上がる』(本広克行監督)でした。
ももクロ主演映画ということで、アイドル映画と見做されてしまったのが非常に勿体無い映画です。
名作ですので、機会があれば是非ご覧ください。