『時代劇入門』(春日太一) 時代劇はファンタジー?食わず嫌いはもったいない

春日太一「時代劇入門」

春日太一さんの『時代劇入門』を読みました。

時代劇の魅力・面白さを解説した新書です。

「時代劇はファンタジー」という斬新な解釈で、その面白さを解説した本です。

ガンダムなども例えに引いて、時代劇を全く見ない人にも面白さが伝わるように書かれています。巻末には富野由悠季監督のインタビューも!

時代劇が好きな人はもちろん、

  • 時代劇をあまり、ほとんど、全く観ない人
  • ファンタジー、SFが好きな人

に是非おすすめしたい本です。

新書『時代劇入門』について〈概要〉

『時代劇入門』はKADOKAWAから2020年3月に出版された新書です。

363ページ、読了まで約4時間かかりました。

この本の目次

第一部 時代劇の接し方

第一章 ガイダンス〜気軽に楽しむための「なんとなく」と「とりあえず」

第二章 時代劇って何?

 

第二部 時代劇のあゆみ

第一章 戦前の時代劇

第二章 戦後の黄金時代

第三章 映画の衰退、テレビの登場

第四章 パターン化とジャンルの後退

 

第三部 とりあえず知っておきたい基礎知識

第一章 とりあえず知っておきたい主なジャンルとヒーロー

第二章 とりあえず知っておきたい時代劇ヒーロー50選

第三章 とりあえず知っておきたいスター30

第四章 とりあえず知っておきたい監督10

第五章 これだけは覚えておきたい!原作者10

 

第四部 もう少しだけ掘り下げておきたい重要テーマ

第一章 「忠臣蔵」入門

第二章 忍者の変遷

第三章 大河ドラマってなんですか?

 

第五部 チャンバラの愉しみ

第一章 殺陣はプロレスである!

第二章 ラブシーンとしての決闘

第三章 縦の入り口としての『ガンダム』

 

《特別インタビュー:富野由悠季監督が語るチャンバラ演出の極意》

著者:春日太一さんのプロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年生まれ。映画史・時代劇研究家。日本大学大学院博士後期課程終了。

著書『天才 勝新太郎』、『時代劇は死なず! 完全版 京都太秦の「職人」たち』、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』など

春日さんの本は、淡々とした文体の行間から、著者の熱すぎる想いが滲み出てくるような作品が多いです。

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』は、同撮影所で活躍した伝説的なスタッフ・キャストを追ったノンフィクションですが、最上のエンタメ小説のような面白さです。


本当に「入門」書

入門書とか言っておきながら、難しい話ばかりで全然初心者向けじゃない本って結構多いような気がするのですが、この本はそんなことありません。

出てくる例がドラクエⅤだったり、ガンダムだったりするのです。

時代劇を敬遠している人も、抵抗感なくその魅力を知ることができる本なのです。

時代劇に対する偏見を捨てて、その魅力に迫る

時代劇=『水戸黄門』は間違い!

「時代劇と言えば?」と聞かれたら『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』、あるいは『遠山の金さん』などを思い浮かべる人が多いでしょう。

そして、これらの作品が「時代劇=古臭い、面白くない」などといったネガティブなイメージを持たせているのだと思います。

これらの作品の流れは、

権力者が身分を隠して、庶民と交流する

強欲な代官や商人が、悪事を働いているのを見つける

自らが現場証人として、その悪事を追究し成敗する

というストーリーです。

ごくたまに例外的な回もありますが、99%はこの流れです。

『水戸黄門』など、これらの作品が高齢の視聴者に支持されたため、後続の時代劇がこの方針で制作されることになってしまいました。

それが時代劇に対してネガティブなイメージを植えつけてしまった、と著者は指摘します。

しかし、このような『水戸黄門』の流れを組む時代劇はむしろ亜流であって、本流の時代劇ではないと。

では、本来の時代劇とはいったい何なの?ということになるのですが、何と著者によれば…

時代劇はファンタジー

というのです。

現代から未来のことを描くのがSF、過去のことを描くのが時代劇、という捉え方でOKと。

これはびっくり。でも納得。

大掛かりなアクションなど現代劇では不自然なことや不可能なことが、時代劇では抵抗感なく表現できるのです。

現代劇の場合、対立勢力が殺し合いをするなんてヤクザ映画かSF映画でないとリアリティが無いでしょう。

必殺技も特撮やアニメ以外だと荒唐無稽になってしまいます。

でも時代劇だったら、要塞に籠もっての殺し合いや、佐々木小次郎の「燕返し」や沖田総司の「三段突き」と言った必殺技も、違和感なく受け入れることができます。
(沖田の「三段突き」は記録には残っているのかもしれませんが、実際にはそんな技あり得ないですよね)

また、この本でも解説されている『忠臣蔵』など、現代ならば「殺人未遂で罰せられた親分の仕返しをするために、子分たちが集団で被害者(老人)をなぶり殺す」話でしかありません。

時代劇=ファンタジーであるからこそ、現代の一般常識ではあり得ないことでも、すんなり受け入れることができるのです。

本書ではこの斬新な解釈に立って、名作時代劇が多数紹介されています。

重要テーマ各論 〜監督とか俳優とか忠臣蔵とか〜

本書には「時代劇とは〜」という総論ばかりでなく、具体的な監督や俳優といった各論の解説もあります。

歴代の時代劇スターについて、どういう芝居や殺陣が特徴で、代表作は何か、というような基礎的な知識を一通り勉強することができます。

また、忍者モノや大河ドラマといった特定ジャンルの時代劇についても解説されています。

個人的に勉強になったのが、『忠臣蔵』でした。

10年ほど前、2時間ドラマの『忠臣蔵』の撮影現場についたことがあったのですが、俳優さんやスタッフが何だかすごい熱気だったのを覚えています。

当時は何の知識もなく、周りの大人たちがどうしてここまで熱くなっているのか不思議で仕方ありませんでした。

本書を読んで、『忠臣蔵』がどれだけ特別な意味を持つ作品なのか、解ったように思います。

『時代劇入門』感想・まとめ

時代劇など全く観ない人にこそ、本書を読んでもらいたいと思います。

時代劇に対する偏見を取っ払い「ちょっとアマプラで時代劇でも観てみるかな」と言う人が増えることを願っています。

本書の中で一番心に響いたのが、「時代劇は伝統芸能ではなく、現在進行形のエンターテインメントである」という箇所。

制作者の端くれとして肝に命じながら、面白い作品を作りたいと思います。

ABOUT ME
ろーれる
ろーれる
うどん県出身。京都在住。 映画会社に勤めています。一児の父。 映画やドラマ、旅行やお気に入りの物などについていろいろ書いていきたいと思っています。
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